祈りを捧げる様に掌をくんだ幼子は、口元に微笑みを浮かべて言った。
主に祈りを捧げる様に。許しを請う様に。咎める様に。
「君が生きている事の罪深さを、君はちゃんとわかって生きているの。」
父と母が死にました。
沢山の同胞が仲間が友達が親類が知り合いが。いっぺん一度に死にました。
死んだ親の亡骸を目の前に斑点模様の子供達は呆然と。
或いは親の仇に飛び掛かってそのまま斬って殺されました。
少年は父親の亡骸の前で佇んでいた。
牙を剥き双眸を見開いたまま、脳天に矢を突き立てて倒れてなお何かを引き裂こうとしたまま、かたまった腕、鋭い爪。斑点の散った毛皮。チープな怪物小説で描かれる怪物の最期の結末を描写すれば、丁度こんな姿になるのだろうか。とてもヒトの最期の姿とは思えない死に様だった。母親と父親が折り重なる様には死なず、互いに別の場所で。それでも同じ様にケダモノの様な姿で死んでいたのは、それはとても彼等らしかったのかもしれない。
ポツポツと振り出した雨粒が、父親だったケダモノが開いたままのあぎとに降り注いでいくその傍らに、膝をついて涙をぼろぼろとぼろぼろと流す幼子には何故、彼等は殺されなければならなかったのか。それはわからなかった(わかれる様な年頃であったなら、いっそ先程斬り殺された年上のあの子みたいに恨んで。憎んで。親の仇に飛び掛かってその場で死ぬことが出来たのかもしれない。)。ヒトとは思えない怪物でも彼は確かに、幼子の父親で。だから幼子は雨が沁み込んでいく父親の遺体が冷たくなっていくのがとても悲しかったのだ。
おいで、と父親の遺体のそばで泣き崩れる幼子の肩に手を置いたその人の手もまた血濡れていた。騎士団の証たる甲冑の至るところに散る赤を雨が洗い流して行く。地面に薄まった血の赤が広がっていけばその場はさながら赤い絨毯を敷き詰めたようだった。何せ子供以外の賊は全員討伐されたのだから。獣人と騎士団員、双方流された血の量は計り知れない。多くの同胞を殺した獣の子供達を保護しようという彼等は、とても理性的で真摯と言えるだろう。たとえこの殺戮を行ったのが彼等だとしても…。
父親の遺骸から剥ぎ取ったバンダナを掻き抱いた幼子は、他の子供達と同様に騎士団に連れ帰られ。後日、方々の孤児院なり教会になり散り散りとなっていく彼等と運命を共にした。最早彼等が、彼等の氏族として生きる道は許されざる道だったから。斑点模様の子供達は、皆一様に頭を垂れてその運命を受け入れるしかない。生きていく為だ。
父と母達は殺されました。
ですが父と母達は殺されるに値する罪を犯して居たと。ぼくに神父様は教えてくださりました。
ぼくらの両親達は他人を殺して日々の糧を得ていたといいます。
それでは、それでは、ぼくが大好きだった父の。母の。ああ、両親が帰ってきたのだなぁというあの。
――大好きだった、あのかおりは。他人(ひと)の血の臭いだったんだ。。
罪深い父母は。血の臭いを纏わせて。他人を殺してきたその掌で息子の頭を撫で。笑っていたのだ。
罪深いその息子は。そうとも知らずに彼等を愛し、そのかおりを好き好んで。嗅ぐ度に喜んでいたのだ。
嗚呼、嗚呼。
ひとごろし。
ひとごろし。
ひとでなし。
ぼくのりょうしんは、ひとでなしのひとごろし。
斑の子は、教会に引き取られたその日から従順に。ただ従順に日々を過ごしていた。
(以下 つづ、く?
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